物流業界で取り組むBCP対策
物流BCPとは?
BCPとは、Business Continuity Planの略で「事業継続計画」を指します。
企業が自然災害、大火災などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめ、重要な事業の継続と早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における対策・代替手段などを事前に取り決めておく計画のことをBCPといいます。
物流におけるBCPは、BCPのうち物流体制とその対策に絞ったものを指します。特に東日本大震災においては被災エリアが想定以上に広域に及んだことやガソリン供給が停止したこともあり、被災地ではない関西などでも一部物資の不足が生じるなどの混乱が発生しました。日本は災害大国と言われるほどに自然災害の発生件数が多く、地震・台風などの風水害・雪害などサプライチェーンへ影響を及ぼす可能性のある災害がいつ発生してもおかしくない状況です。新型コロナウイルス感染症流行で見えた、社会機能の麻痺についてもひとつの災害と言えます。
物流BCPは、社会や企業活動に大きなマイナスを生む災害・事故・外的要因が発生した際にも「物流を止めない」「サプライチェーンの早期の復旧」を図ることに特化した事業継続計画とその取り組みです。
物流業界における非常事態時のリスク
大規模な地震や津波、異常気象による水害といった自然災害等の非常事態が生じた場合、物流会社としては、計画通りの輸送サービスが提供できなくなり、また、荷主企業としては、供給責任が果たせなくなることが、物流業界における大きなリスクとなります。
特に先ほど言及した東日本大震災発生時には、物流の効率化を目的に各地に点在していた大型物流拠点や倉庫を首都圏郊外に集約した結果、この物流拠点が被災した際に物流全体が機能不全に陥ることとなりました。
また、これら物流拠点は首都圏郊外の主要幹線道路沿いや高速道路のIC付近に集中しており、災害発生後は道路自体の破損、緊急車両通行のための交通規制の影響を受けました。ガソリン不足も影響し、トラックによる陸路を中心とした効率的な首都圏物流網がマイナスに作用した形となります。

文部科学省地震調査研究推進本部によると、首都直下地震が30年以内に発生する確率は70%程度とされております。また、南海トラフ地震発生時には中部~九州にかけての広域被災と中部以西方面の陸路の多くに影響が出ることが想定されます。輸送手段を陸路に限定する運用や物流拠点の一極化は平常時は問題ないものの、経済の基幹として災害発生時にも輸送体制を維持するにはリスクが高く、事業継続に十全な体制とは言い難いのではないでしょうか。
物流BCP策定の目的・構成要素
物流業界におけるBCP策定の大きな目的は、従業員の安全確保と物流機能の担保、そしてなるべく短期間で通常通りの運用に戻し、事業を存続させることです。また、災害等のリスク対応のために荷主と物流事業者で平常時からコミュニケーションを取り合うことも大切です。荷主と物流事業者の良好なパートナーシップ関係の構築ができ、双方の競争優位性向上にも繋がるといえます。
国土交通省発表の物流BCP策定ガイドラインでは、下記の策定が推奨されています。
①防災対策(事前の体制整備)
人材確保や体制構築、物流拠点の震災対策や燃料等確保、災害発生時の行動マニュアル作成が推奨されています。
また、代替輸送ルートの確保についても言及されており、トラックによる長距離陸路輸送が使用できない場合の鉄道輸送や海上輸送についても示唆されております。
②発災後の措置
まずは従業員の人的被害の把握、その後物流事業者との連絡機能の確保です。災害時には平時の連絡インフラのダウンが起こりうるため、非常用通信設備をいくつか用意し、速やかな相互連絡体制の確保が重要であると解説されています。
③復旧対策の実行
現状に応じた復旧対策の実行、燃料の確保などを行います。特に災害発生後は通常の輸送に加え、国や自治体、メーカーからの支援物資輸送の要請が発生するため、どの範囲まで対応するか等も考慮した上で配車・人員配置を行うよう指示されています。ただし従業員、特にドライバーの安全確保を最優先とし、配送先での被災や過労には十分配慮を行うよう留意しましょう。
④実効性強化のための仕組みづくり
各荷主と物流事業者間で定期的にBCP対策会議を実施し連携体制を構築すること、共同訓練の実施についても推奨されています。
参考情報:国土交通省「荷主と物流事業者が連携したBCP策定のためのガイドライン」
物流業界のBCP対策の現状
物流の各プロセスにおけるBCP対策が重要であることは広く認識されています。しかしながら物流BCPの策定には、コストや労力などの負担を要するため、なかなか普及が進まない状況です。日本物流団体連合会によるBCP策定状況アンケートでは、策定済は45%程度にとどまり、いつ起こるか分からない災害対策としては十分に普及していると言い難い状況です。
今日から始める、物流BCP策定
自然災害による交通インフラの寸断や規制の影響を受ける物流業界においては、先ほどの国交省の物流BCP策定ガイドラインでも「荷主と物流事業者の協力体制の構築」「平時から代替手段について検討を進める」ことが推奨されていますが、まずは非常時マニュアルを作るところからスタートするだけでもご検討ください。

・物流BCP担当者確保
物流事業者と荷主の連携が重要になるため、サプライチェーン全体に精通した担当者を選定します。
担当者を中心にマニュアルの策定や体制整備、研修実施などを進めていきます。
・行動マニュアルの策定
災害発生時に参集できた従業員が、まず何から行うべきかをまとめたマニュアルを策定し、定期的に見直しやそれに基づいた研修・防災訓練を実施します。
特に中小事業者においては最初からBCP策定プロジェクトを立ち上げるのは難しいため、行動マニュアルを作成し、それを充実させBCPに発展させていくことも望ましい方法です。
・物流拠点の分散
先述の通り、物流拠点を1か所や近郊に集中させると平時の運用効率は上がる一方、その拠点や地域が被災した際物流網が停止するリスクがあります。可能であれば同時に被災しにくい別地域、それも難しい場合は使用する主要幹線道路やルートが重複しない地域に物流拠点の分散を行いましょう。
ただし物流拠点の分散は運営コストに大きく影響するため、必要であれば外部委託や運用代行などのサービスを利用するのも一つの手段です。
・輸送手段の多様化
特に長距離の輸送手段がトラックによる陸送だけの場合、大震災で道路が破損した際に輸送が停止する可能性があります。迂回路も他の車両が集中し渋滞が発生する可能性や、緊急車両通行のための交通制限が敷かれる場合もあります。
可能であれば鉄道輸送や航空輸送、海上輸送など別の長距離輸送手段を確保しておく必要があります。これらの輸送事業者との災害時連携強化のために、平時からある程度シフトしておくのも有効です。
ただし、鉄道輸送は災害発生時にレールが破損する可能性もあり、航空輸送は自衛隊や他国からの救援を受け入れる拠点としても機能するため、民間航空機の運航に影響が出ることも想定されます。
海上輸送は比較的災害発生時の運航にも強く、特にフェリー輸送はガソリン満タンの車両ごと物資も輸送でき、物資運搬をより効率的に行うことができます。